イドリス・エルバを雪山で独り占めしてウハウハ。

そんな世界中のイドリス愛好家が泣いて喜ぶような映画が、ここに登場した。しかもタイトルは『ザ・マウンテン 決死のサバイバル21日間』ときた。三度の飯よりもイドリスが好きという諸兄なら、このタイトルを聞いただけで胸は高鳴って「熊蜂の飛行」を奏でだし、心臓は早鐘を打ってボンゾの「モビーディック」を叩きだすに違いない。

例えばイドリスが熊と戦って雄叫びをあげる。例えばイドリスがかまくらの中で丸くなって寒がる。例えばイドリスがクレバスに囚われたうさぎを救い出す。例えばイドリスが、例えばイドリスが、ああ、いけない。妄想がドントストップミーナウになって、しまいにはフレディが歌いだしそうだ。

タイトルだけでこんなに想像力を掻き立てられ、わくわくが止まらない映画は『貞子vs伽椰子』以来かもしれない。映画を観る前からこの調子なのだから、実際に映画が始まったら、イドリスとの雪山サバイバル満漢全席を食らって入院してしまう恐れすらあるため、納期を控えているイドリスファンは、仕事を先に終わらせておくのが賢明だろう。なぜなら先方が困るからだ。

んが、ホルドオン。あいや待たれい。「イドリス」「雪山」「サバイバル」という脳幹を刺激するキーワードに気を取られ、真剣にまったく気づかなかったが、ジャケット上にはイドリスの横にもうひとり、登場人物とおぼしき女性が写っているではないか。その人とは…

ケイト・ウィンスレット。

ん? ぽよ? ケイト?

一瞬、我が「イドリスと雪山でウハウハ」計画に不安がよぎった。なぜならケイトだ。ウィンスレットだ。ものすごく語弊があるかもしれないが、『タイタニック』でレオ様を冷たい海の底に沈めてまで生き延びた生存主義者である。

いや、ケイト・ウィンスレットは大好きな女優さんだ。が、こと本作に限っては、ケイトにあまりしゃしゃり出てきて、『タイタニック』ばりの活躍をしてもらっては、「イドリスと雪山でウハウハ」度が薄まってしまい、おじさん齢四十五にして困るのである。天下一品のラーメンは美味いが二杯は食えない。それと同じだ。違うか。とにかくケイトファンには申し訳ないが、ぼかあイドリス・エルバが観たい。イドリスだけがッ、観たいッのだッ。

が、いまさら配役は変えられない。つか映画完成してるしそんなん無理だ。

とりあえず、アイパッド上のケイトの顔を指でごしごしこすってみたが、そんなのはもちろん無駄な抵抗、焼け石に水であり、私はケイトが引き立て役に回ることを願いつつ、脳内をイドリスで一杯にした上で『ザ・マウンテン』の視聴を始めた。

そして叫んだ。

やめろ、ケイト。やめてくれえええっ!

本作のイドリスは脳神経外科医だ。その設定自体は「このイドリスに脳みそオペされたい」と思わせるくらい、渋くてクールで申し分ないのだが、どうやら優柔不断かつ安全厨という属性が付け足されている。基本受け身で、あんまり動くとかえって危険だし、じっと救助が来るのを待とうというタイプであり、いざ外に出てみれば足を滑らせて窮地に陥ったりして、あんまり雪山でサバイバルしてやる!という気概は見られない。ウォームな感じだ。そして、ああ、恐れていたとおり、それとは反対にケイトがつおい。止まらない。骨折れてるのにつおい。

そして映画は、小生の「イドリスと雪山でウハウハ」プランを嘲笑うかのような展開をみせ、中盤以降はもう肩を落とし、両手で顔を覆うしかなかった。

映画が終わり、あらためて原題を見返す。なるほどな、そういうことか。

そう、答えはすべて最初からそこにあった。「イドリスと雪山でウハウハ」と先走ることなく、冷静に原題を精査していれば、こんな罠には落ちていなかったろう。然るべき姿勢で鑑賞に臨めば、本作は決して悪い映画ではなく、要は下調べを怠ったあまり、自分には場違いな店に入ってしまったようなものだ。

ならこの結果は自業自得なのかもしれないが、ひとつだけ声を大にして言いたい。

犬かわゆす。

(C)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でBadCats Weeklyをフォローしよう!