【ゲームレビュー】『GRIS』~ゲーム的物語表現の極致に触れる、喪失と再生のアクションアドベンチャー~

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(by シェループ

アクションゲームに物語は要らない。
このジャンルでは時々、そのような声が出ては議論になる。

背景にあるのはジャンルの性質だ。アクションゲームはその名の通り、キャラクターを動かし、作中の世界を直接体験することに主眼を置く。だからこそ、文章を読ませたり、長い映像を挟むなどの物語を想起させる要素は、主題にそぐわないとして嫌われる傾向にある。例え、それが面白いものであったとしても。

だが、それでもアクションゲームに物語は欠かせない。プレイヤーに目的意識を与える指標として、ゲームが進んでいること、変化を感じさせるための仕掛けとして、無くてはならないものだ。
特により豊かな表現ができるようになって以降は、様々な作品がいかにしてジャンルの持ち味を維持しつつ、物語も楽しんでもらえるようにするか、試行錯誤を重ねてきた。

その中で一際、ジャンルの持ち味を活かした表現がゲーム側の演出と連動して物語を体験させること。敵の大群を相手にしながら、逃げる親玉を追いかけて最終的に殴り込みをかけたり、窮地に陥ったプレイヤーを助けるために加勢するも敗北し、その無念と怒りを敵にぶつける反撃に転じたりなど、実際にプレイヤーが体験することにフォーカスしたその手法は、アクションゲームの魅力を最も活かした物語表現であるように思う。前者はシューティングゲームも盛んに導入していたりするが。

GRIS』はそのような表現の極致を突き詰めたような作品だ。本作ではアクションゲーム特有の体験と同時に、喪失と再生の物語が全編にわたって描かれる。

主人公「GRIS」は美しい歌声を持つ少女だった。

だがある時、声を発せられなくなり、その悲しみと動揺から、絶望の淵に陥ってしまう。

歌えなくなった悲しみから、歩くこともままならないGRIS。
プレイヤーがコントローラを通じて介入しなければ、そこに延々と彼女は立ち尽くす。

一歩ずつ、前進させるように促せば、GRISは気力を取り戻し、やがては走り出す。
そして、彼女と共にプレイヤーは不思議な世界を旅し、再生の糸口を探っていく形となる。

本作のアクションゲームとしての作りはシンプルだ。キャラクターを動かし、行く手を阻む障害を乗り越えて「星」を集めながら世界を旅していくだけ。敵は登場せず、戦闘も発生しない。物静かな内容だ。

しかしながら、舞台となる世界がGRIS自身の心情を共有するかのような姿をしているため、先へ進む度に驚くような変化を見せていく。特に”色”にまつわる表現は圧巻で、始めは無色だった世界が、冒険と共に色を取り戻していき、最終的に鮮やかで美しい世界へと変貌を遂げる様子は、言葉には表現しがたい感動がある。

色を取り戻すことによる世界の変化は、GRIS自身の成長も描いている。旅を進めるにつれ、彼女は新しいアクションも体得し、行動範囲が広がっていくのだが、その一つ一つが開放感に富んでおり、GRIS自身が元気になっていく手応えを感じ取れる。

時に彼女自身の不安を具現化したような”闇”が襲い来る場面もあるが、それも直接戦うのではなく、自ら前に進んで乗り越える、逃げ切る展開にフォーカスしているのにも、本作の喪失と成長の物語を描く演出として見事に表現されている。

行く手に立ちはだかる仕掛けも個性に富みつつ、意地悪な要素は極力抑えるなど、旅をする楽しさを損ねない配慮が凝らされている。なので、ゲームとしての難易度は非常に低い。エンディングまで要する時間も2~4時間ぐらいである。

しかし、物語とゲームが連動した全体の作りもあって、心地よい満足感を得られる。体験に重きを置いていることから文章による表現も皆無で、触れる映像作品を味わっているかのような気持ちにも浸れる。

困難に挑み、乗り越える醍醐味は無いに等しいので、そのような物を求めると肩透かしを喰らうかもしれないが、美しい映像と音楽と共に体験する物語を味わいたいのであれば、自信を持ってお薦めできる紛うことなき”作品”。

Nintendo Switch、PC(Windows)で2018年12月13日より発売中だ。

本作の発売元「Devolver Digital」は見事、最高にイカしたゲームを2018年最後の月に生み出した。アクションゲームだからこそ味わえる、言葉に表しがたい感動をぜひ。

※上記スクリーンショットの出展元『The Messenger』(※販売:Devolver Digital、翻訳:小川公貴編集長様)も最高にイカした忍者アクションゲームです。

(c) 2018 Nomada Studio

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この記事を書いた人

新旧のゲームを遊びまくる人。ひよっこライター。もぐらゲームスなどゲーム系メディアへ寄稿中。

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