【連載/スローな落語家と暮らしてる】第5話: 走ってるけど師匠じゃない

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(by 蛙田アメコ

◆ダッシュ、師匠、ダッシュ!
配偶者が落語家だ。職業柄なのか当人の性格か、実に大変ゆるやかな生活を送っている配偶者だけれど、年に何度かは走り回るほど忙しい時期がやってくる。そう、年末。12月……世に言う『師走』である。配偶者も忙しそうだし、ほかのベテランの師匠方ももちろん忙しそうだ。……ちなみに、配偶者は走ってるけど『師匠』ではない。

今回は、「『師匠!』って呼びかけていい落語家さんとNGな落語家さんがいる!」というお話。

◆配偶者、師匠と呼ばれて困る
落語家がテレビに出ているときには「〜師匠!」と呼びかけられている。それにならってか、配偶者が落語家と知るや「師匠!」と呼びかけてくださる方がいらっしゃる。お葉書の宛名も「●●御師匠様」とかなっていたりする。しかし。配偶者は『師匠』と呼ばれると、めっちゃ困ってしまうのだ。その理由は、「彼がまだ修行中だから」である。
そう、「師匠」と呼ばれてはいけない身分なのだ。

◆師匠=「真打《しんうち》」
落語家というのは階級社会。見習い→前座→二つ目→真打、と階級が上がって行くわけである。で、「師匠」と呼ばれるのは「真打のみ」。とはいえ、「名札に真打って書いてあるわけでもないから、どうやって見分ければいいのかわからないよー」と思われるかもしれない。
そういうわけで、なんと今回は『落語家観察早見表』を特別に公開します!! これは永久保存版の可能性すらあります。見分け方は以下の通り(※配偶者への独自ヒアリングによる)。

ちなみに、前座さんがリュックの理由は「師匠の荷物を持つために両手をあける必要があるから」だそう。へえー。

◆「師匠!」と呼ばれちゃったら
そういうわけで、「師匠!」と呼ばれると、素直に「はい!」と返事をするわけにもいかないし、上記のようなことを説明するのも野暮だし、なんともいえない気持ちになるという配偶者。「じゃあ、師匠って呼ばれたらどうしているの?」と質問してみたところ、

「ヌーン、っていう顔をして誤魔化す」

とのことだった。配偶者は我が夫ながら普段からだいぶヌーンとした顔をしていると思うんだけれど……。

◆ダッシュ、生ける縁起物、ダッシュ!!
年末年始、落語家というのは何らかの縁起物なのだろうか……と思うくらいに、普段は行かないような場所での仕事が増える配偶者。たぶん落語家という職業を『生ける縁起物』みたいに考えているのかしら、世間。そんなわけで、皆さんの身の回りも、落語家出現率が上がると思われます。ぜひ、身近に落語家さんが現れたら、「師匠呼び」していいかどうか見極めてあげてください。二つ目以下の修行中パーソンたちに「よっ、師匠!」と呼びかけると彼らは「ヌーン」とした顔をするしかなくなってしまいますゆえ。

そんなわけで12月は忙しそうに走り回る配偶者。今日は彼の師匠(文字通りの方)にお歳暮をお届けしに上がるらしい。「行ってきます!」と高島屋の紙袋を持つ配偶者の顔を見る。

……うん。やっぱり「ヌーン」ってしているな。

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この記事を書いた人

蛙田アメコのアバター 蛙田アメコ ライトノベル作家

小説書きです。蛙が好き。落語も好き。食べることや映画も好き。最新ラノベ『突然パパになった最強ドラゴンの子育て日記〜かわいい娘、ほのぼのと人間界最強に育つ~』3巻まで発売中。既刊作のコミカライズ海外版も多数あり。アプリ『千銃士:Rhodoknight』メインシナリオ担当。個人リンク:  小説家になろう/Twitter/pixivFANBOX