
(by とら猫)
思えば、ずっとフレディを追いかけてきた。
最初に聴いたクイーンのアルバムは確か『イニュエンドウ』で、当時はヘヴィメタルしか聴いていなかった私に、やっぱりヘヴィメタルしか聴かない友だちが、主にヘヴィメタルのことしか載っていない『BURRN!』という雑誌と一緒にCDを貸してくれたのではなかったかと思う。
ただただ高速ドリルで脳みそを抉られつづける、みたいな当時のヘヴィメタルのサウンドに慣れていた私の耳には、『イニュエンドウ』の華麗で、知的で、きらびやかなサウンドは新鮮で、お、クイーンいいな、と直感し、すぐさま最寄りのCD屋で『戦慄の王女』と『Queen II』を買い求め、がっちりと心を掴まれたのだった。
それからわずか数か月後、フレディは逝ってしまった。
いつかライブで会える日を楽しみにしていたのに。
会いたい、フレディに会いたい。けどもう会えない。

で、とりあえずライブビデオを観た。ぐっと来た。が、数が少ない。物足りない。
そこで西新宿の怪しい一画へふらふら出かけ、海賊版ビデオを買いあさった。それでも画質の良いものはたちまち観尽くしてしまい、最後にはノイズだらけの劣悪なビデオにも、もちろん店内のデッキでしっかり確認したうえで手を出した。気が付くと、我が家には白いひらひらのフレディ、黒いひらひらのフレディ、白黒タイツのフレディ、カラフル縞タイツのフレディ、ハードゲイルックのフレディ、Tシャツ姿のフレディなど、色んな時代のフレディが「ママ~」と熱唱するビデオが山のように積み上がっていた。
そうこうしているうちに、クイーンがポール・ロジャースをヴォーカルに迎えて復活した。もちろん、観に行った。よかった。今度はアダム・ランバートがヴォーカルを務めた。これも観に行った。よかった。ちなみにフレディ・エトウ率いる、ブライアン・メイも太鼓判を押しているコピーバンドQueenessのライブにも足を運んだ。笑えた。エトウ、髪薄いし。けどよかった。アルゼンチン発の究極のクイーントリビュートバンド、ゴッド・セイヴ・ザ・クイーンのライブも観た。「Love of my life」をレロレロレーと歌った。
どのクイーンもよかったが、やはりフレディのいないクイーンはクイーンではなく、クイーンの体裁を借りた、高性能ロックショウとでも呼ぶべきものだった。

そして満を持して放たれた、映画『ボヘミアン・ラプソディ』。
私はついに、フレディに会えたのか。
会えなかった。けどまあ、それは仕方がない。本作はブライアンやロジャー自身も語っているように、ドキュメンタリーではなく映画なのだから。実際、時系列はけっこう滅茶苦茶なように感じたが、最強の生き証人であるふたりが「映画だからオッケー」と大らかに認めているのだから、一介のファンたる私などは、この生き残った女王たちからの寛大なる贈り物を僥倖と受け止め、グループの歴史を(メッチャ駆け足ではあるが)数々の名曲に乗せながら楽しむ、というのが正しい鑑賞法だろう。
各メンバーに扮した俳優陣はみんなすばらしい。フレディ役のラミ・マレックは言わずもがな、中でもブライアン役のグウィリム・リーがすごい。あのカールを乗せたようなヘアスタイルは必修科目だとして、佇まいや仕草、何気ない間、声音までブライアンにそっくりで、レッド・スペシャルを抱えてステージに立つ姿は骨の髄まで純正ブライアンである。たぶんグウィリムもブライアンと一緒に、オフの日にはアナグマやハリネズミを助けているに違いない。
悪ガキのロジャー・テイラー(「I’m in love with my car」でメンバーにいじられるエピソードが笑える)、寡黙なジョン・ディーコン(実は「Another one bites the dust」など名曲多し)といったメンバーの再現度も、見事なものだ。特に『オペラ座の夜』のレコーディング風景は今まで文字を通じてしか知らなかった部分が多く、伝説的な「ガリレオ」のエピソードも、実際その場に居合わせているようなリアル感で追体験することができた。

そして最後に待ち受ける「ライブエイド」の再現ステージ。
「エーオ」だ。もう「エーオ」しかない。「オーラヒァイズ、レディオガッガッ」だ。おなじみのステッキ風マイクスタンドを携えたフレディの手振りに合わせ、7万人もの観衆が、一斉にあの謎のグーパーダンス(正式名称不明)を決めるシーンは圧巻だろう。
そしてこの瞬間だけは、他のドラマのシークエンスとは違って脚色は一切入っていない。厳然たる事実である。つまり、あの瞬間、ウェンブリースタジアムにいた7万人だけでなく、その模様を衛星中継で観ていた何億もの人々が、いっせーのせでグーパーダンスを決めていたということだ。
こんなとんでもないことを、たった一人の男がやってのけた。
そんな男が、かつてこの地球上で、自分たちと同じ空気を吸っていた。
こんな事実を見せつけられて、心が震えないわけがない。
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