【連載/だからゲームはやめられない】第3回: たった一つのガラス片に激怒し、打ちのめされた『超執刀カドゥケウス』

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ゲームを遊んでいると、必ず、どこかで壁にぶつかる。
僅かなミスが命取りになる罠と穴だらけの区域。
俊敏な動きと戦術で、一切の隙を見せず攻めてくるボス。
数多くの試行錯誤が求められるパズル。

そんな時、どうするか。今は自力で方法を探るのを信条に取り組んでいるが、お手上げな状況に追い込まれた時は攻略本を買うか、インターネット上の攻略サイトを調べるようにしている。
インターネットが無かった時代だと、そこに「他人の力に頼る」という選択肢もあった。自宅に招いた友人に難所をクリアしてもらうというものだ。特に学生時代はよくその手を使っていた。

近年はその機会の減少もあり、他人の力に頼ることは無くなった。
しかし、ただ一つ、思いもしない人物の力を借りてクリアしたゲームがあった。

ゲームの名は『超執刀カドゥケウス』。2005年にアトラスより発売されたニンテンドーDS用ソフトで、「SF外科手術アクション」を謳うゲームだ。

本作はニンテンドーDSというタッチスクリーンを実装したハードだからこそ実現した、全く新しいゲームだった。ジャンル名の通り手術をするゲームで、医療機器を用いて患者を刻一刻と蝕む病魔を駆逐していくというものだ。操作に用いるのはタッチペンだけと簡単ながら、その手触り感は圧巻で、本当に医者になって外科手術に臨んでいる気持ちに浸れる。
また、本作は非常に難易度が高く、僅かなミスが文字通りの命取りになる。だが、それも今、命と向き合っている状況を強く実感させると同時に、医療行為とは人間の生死を弄ぶことである事実を思い知らせる、強い説得力に富んだものになっている。それらの作りに私は強い感銘を受け、時間を忘れてのめり込んだ。今なお、ニンテンドーDSで記憶に残っているゲームと聞かれれば、真っ先に挙げる傑作の一つだ。

ただ、本作は自力でクリアしたゲームではなかった。
そもそも、初めてプレイした時、心が折れかけた。
一番最初のステージ(オペ)がクリアできなかったのだ。

最初のオペとは、バイク事故でガラス扉に突っ込んでしまった患者の手術。やることは身体の至る所に刺さったガラス片の除去、傷の手当、裂傷の縫合という、簡単な内容だ。

まずは裂傷を縫合し、二つのガラス片をピンセットで取ってと指示された。
早速、私はタッチペンを手に持ち、縫合を行い、ガラス片を一つ取り除いた。
そして、最後の二つ目を取り除こうとした時。

「ブスッ!!」

DSのスピーカーから、身の毛もよだつ痛々しい音が鳴り響いた。

え!?思わず戸惑った。
そして気を取り直し、再びガラス片を取ろうとした。
またも失敗。痛々しい音が鳴り響いた。

気が付けば患者のバイタル(体力)はゼロになり、画面には「手術失敗」の四文字が。患者は院長が診ることになり、外された自分の分身たる主人公は失敗のショックから医師を辞め、失踪してしまうという、衝撃的な結末を迎えてしまった。

どうしてこうなったのか、さっぱり分からなかった。
何故、正しい方向に取っているのにミスなのか。
納得できない私は、直に再挑戦した。
だが、やはり二つ目のガラス片が取れない。

問題のガラス片。下側のがそれ。

DS本体がおかしいのかと、本体設定も確かめたが、異常はない。
なのに、クリアできない。
そんな納得できないミスが繰り返され、次第に私の口からは汚い言葉が漏れるようになっていき、遂には怒号を発し、DS本体とタッチペンを座布団に叩きつけていた。

そんな最中、母親が部屋に入ってきた。
それを見た私は、勢いでこう言ってしまった。

「ちょっとやってみてくれないか、これ!全然できないんだよ!」

先の通り、本作はタッチペンしか使わない。だから、ゲームを普段やらない母親でも、この異常な現象を再現してくれると踏んだのだ。
そして、私は母親にDSとタッチペンを授け、やり方を教えてプレイさせた。
もし、これで同じ事が起きたら、DS本体を修理に出すしかない。
そんな最悪の展開を覚悟し、結果を待った。

すると、どうしたことだろう。
母親はミスなく、クリアしてしまった。

思いもしない展開に唖然となった。
そんなバカな!?
一体、どうやってあの二つ目を取り除いたんだ!?
気になったた私は、母親に聞いた。
答えはシンプルだった。

「あんた、抜く方向逆!」

私は二つ目のガラス片を下から上に刺さっているものと思っていた。
だが、実際は上から下に刺さっていたのだ。それを見間違えてた私は、患者にガラス片を押し込み続ける鬼畜の所業を繰り返していたのである。

真相を知った瞬間、血の気が引き、崩れ落ちた。
そして、母親からのこの一言である。

「バ~カ(笑)。」

返す言葉も無い。

その日は立ち直れず、そこで中断してしまったが、翌日に再開し、以降は厳しい展開に悩まされつつも順調に進んでいった。そして数日後、熾烈な最終オペを攻略して、エンディングを迎えるに至った。だが、自力でクリアした実感はなく、久しぶりに他人の力……それも母親に助けられた記録が残る締め括りになってしまったのだった。

他人の力を頼ってクリアしたゲームは過去に多くある。
でも、母親の力を借りてクリアしたゲームはなかった。
親に頼るのはなるべく避けたい気持ちがあった。
それが誕生してしまった。
かくして本作は、私のゲーム遍歴に唯一無二の記憶を残す一本になったのだった。
なんでこうなった。これが本当のペンは剣より強しか。

なお、本作は後年、Wiiでリメイク版の『カドゥケウスZ 2つの超執刀』が発売された。
例のガラス片除去も健在だが、抜き取る方向が一目で分かる形状に変更されている。

心の底から叫びたい。

最初からこうしてよ!!

(c)  ATLUS. CO., LTD.

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この記事を書いた人

新旧のゲームを遊びまくる人。ひよっこライター。もぐらゲームスなどゲーム系メディアへ寄稿中。

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