飛騨大鍾乳洞飛騨大鍾乳洞はその名のとおり、飛騨の山中深くに広がる鍾乳洞だ。

最寄りのバス停を降り立つとまず、黄色いジャケットを着た、鍾乳洞のスタッフとおぼしきおじさんに出迎えられる。鍾乳洞までシャトルバスが運行しているのである。親切だ。おそらく客は君しかおらず、かつそこは一面の山野で、民家らしきものは一軒も見当たらない。ホラー映画が好きな君なんかはひょっとすると、「田舎道で出会った親切なおじさんが実は残虐な殺人鬼だった」系のプロットが頭をよぎり、一瞬不安に駆られるかもしれないが、シャトルバスは何事もなく鍾乳洞へ到着するので心配はいらない。鍾乳洞はぼっちに優しい。ぼっちを傷つけない。

コンテクストとは関係なく唐突に現れる「日本一巨大な釜」(マジでかい)に面食らいながら、受付で夏目一枚と百円玉一枚に別れを告げたのち、君は連絡路を通って第一洞へと足を踏み入れる。

異空間。水のせせらぎが響き渡る中、美しくライトアップされたその岩の大広間は「竜宮の夜景」と命名されている。「竜宮で夜景? 海底に夜があるのか?」と素朴な疑問がふと湧き上がってくるが、野暮はよそう。誰かが「竜宮の夜景」だと思ったのなら、これはきっと「竜宮の夜景」なのだ。道行きは比較的平坦なので、日頃運動不足の君なんかでも臆することはない。洞窟は誰にでもフェアだ。そこがいい。

飛騨大鍾乳洞はどちらかというと探検シム系ではなく、美しいポイントを絞って展示しているタイプの鍾乳洞で、第一洞も第二洞も洞窟を歩き慣れている君ならおそらくビフォア朝飯かもしれない。洞内には酒蔵や、ウドの畑があったりして、地域生活の一部としても活用されているようだ。興味深い。

それでも第三洞だけは別だ。そこはアップダウンの激しい難所で、「体力のない方」向けのショートカットも用意されているくらいだ。ひとしきり悩む。見栄を張って進むべきか、おとなしく日和って退くべきか。

が、ここで逃げてはいけない。なにより、この第三洞こそが一番の見どころ。飛騨大鍾乳洞へ来て、この第三洞を体験せずに撤退するのは、推しのライブへ行って、アンコール前のナンバーワンヒット曲を聴かずに帰ってしまうくらい罪深い。そいつはノーだ。

第三洞の特長は、鍾乳石との距離がめっさ近いことだろう。ほんと近い。目をつぶり、心を澄ませれば、石との対話もできそうなくらいだ。石灰質に封じられた太古の声が、頭の中に鳴り響いてくる気がする。

こんなに近いと、君はその艶かしく輝く、白い岩肌に思わず触れたくなるだろうが、洞内でのお触り行為はご法度なので、ここはぐっと耐えてもらいたい。洞窟は人を自由にするが、自由を履き違えてはいけない。

駆け足で鑑賞すれば、すべての洞窟を周っても三十分はかからないだろう。スケール的には平均サイズだが、第三洞の間近に迫る石柱群には心を深く抉られるものがあった。

昭和時代の観光地ムードを今に留める飛騨大鍾乳洞は、リスクを負わずにノスタルジーを補充したい向きにも打ってつけの場所だろう。例によってアクセスは決して容易ではないが、高山を訪れた際には古い町並みだけでなく、山奥に潜むこの愛すべきスポットにも目を向けてもらいたい。

飛騨大鍾乳洞評価》(満点は★5つ)
アクセス:★★
スケール:★★
鍾乳石との近さ:★★★★★
冒険度:★★

 

 

 

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本サイトの編集長を務める、猫。普段はフリーの翻訳屋さん。翻訳タイトルは『RUINER』『Owlboy』(ゲーム)『ミック・ジャガー ワイルドライフ』(書籍)『私はゴースト』(字幕)など。連載「映画ホルマリン漬け」「猫の国」