(by シェループ)
スキンヘッドで上半身裸の男が怒りをぶつけるかのように鎖付きの双剣を振り回し、行く手を阻む魔物を無慈悲に惨殺し、時に力任せに四肢をもぎ取る。そして、飛び散る鮮血。
なんて残酷で、悪趣味なアクションゲームなんだ。
それが『ゴッド・オブ・ウォー』を初めて目にした時の印象だった。
ゲームに限らず、私は過度の暴力、出血シーンが苦手だ。
しかし、少しは克服しようと一時期に思い立ち、幾つかのその手の表現が激しいゲームに挑んだり、映画を鑑賞したことで、若干の耐性が備わった。
だが、本作は耐性が備わった状態でも引くほどの残酷さだった。
ただ、演出はおぞましい一方、アクションの華麗さには見入ってしまうものがあり、次第に興味を持つようになっていった。
そして、遂にその興味は製品版購入という決断へと至る。買って間もなくは過激な表現が含まれてることに怖気づき、始めることができなかったが、やがて、気分が悪くなるほどキツかかったら、そこまでにしようと意を決し、ゲームを開始した。
結果は正視に耐えるどころではなかった。
自分自身がテンションマッドマックスの興奮状態になった。
簡単操作で華麗なアクションが出せる抜群の操作性。
それらアクションの派手過ぎるエフェクト。
映像の迫力を引き立てる為に目まぐるしく動くカメラ。
そして驚愕のボス戦。
なんだこのアクションゲームは!
簡単操作でこんな大胆なことができるだなんて!
凄い!
凄すぎる!
スゲェ!!
もはや残酷なゲームという初見の印象は吹き飛び、当時、ゴルフクラブのCMで過剰なリアクションを見せてた関根勤のようになっていた。
何より、主人公のクレイトスに魅せられた。
特に自ら服従を誓った神に利用され、愛する妻と娘を手にかけてしまった過去は凄惨の極みで、彼が敵を無慈悲に殺すことに納得のいく設定が組まれていたことには感銘を受けた。だからこうなのか、と。そして、作中の演出と各種アクションは、彼自身の怒りを表現したものとも気づき、人の感情を描いた作品という認識を持つに至った。
その後、本作はシリーズ化を遂げ、2007年に続編『ゴッド・オブ・ウォーII 終焉の序曲』が発売。彼自身の怒りは更に増し、驚愕のアクションと戦闘が画面いっぱいに展開された。
更に『ゴッド・オブ・ウォー 落日の悲愴曲』、『ゴッド・オブ・ウォーIII』、『ゴッド・オブ・ウォー 降誕の刻印』、そして『ゴッド・オブ・ウォー:アセンション』と続々と新作が発売され、どの作品でもクレイトスは怒りを爆発させ、自らの復讐を果たすべく、暴虐の限りを尽くした。
一連の物語は『ゴッド・オブ・ウォーIII』で終止符が打たれた。
しかし2018年4月20日、クレイトスは帰ってきた。
プレイステーション4でシリーズ新章の『ゴッド・オブ・ウォー』が発売されたのである。題名が一作目と同じだが、中身は完全な新作で、北欧神話の世界を舞台にしたストーリーを描いた内容になっている。
クレイトスさん、今度は北欧で大暴れですか……と思っていた。
だが、ゲームを始めて姿を現したクレイトスは別人のように物静かで、厳格な男になっていた。更に新たな妻になった人物に先立たれる悲劇に見舞われ、憔悴している様子も見せた。
ある出来事を機に、残された息子アトレウスと共に妻の遺灰を撒く旅へと出る彼は、再び様々な敵に襲われる。
その戦い方は前と変わらず、豪快で無慈悲だ。
だが、その背中からは戦士としての本能を抑えられない苦悩、それを再び駆使せねばならない運命への諦めにも似た悲壮感を漂わせ、怒りに身を任せて戦っていた過去とは明らかに違う立ち回りを演じていた。
しかも、彼は息子に対し、このように忠告するのだ。
「怒りに身を任せるな」と。
耳を疑う一言だった。
クレイトスがそんな事を言うだなんて。
実際に彼は怒りに身を任せ、多くの惨劇と悲劇を引き起こした。
全ては彼自身の復讐心を満たすためだった。
だが、結果的に彼が得たものは、平穏でも幸福でもない。
全てが失われたという事実だけ。
そのことが、彼をこうしたのかと、驚くしかなかった。
その後も過去の出来事が今なお、自分自身を苦しめ続けていること、息子に同じ道を歩ませまいとする確固たる信念も描かれ、父親として、過ちを犯した者として、その責務を不器用ながらも果たそうとする姿が描かれた。
最終的に息子のアトレウスは大きく成長し、クレイトスもまた、様々な経験を通じて父親としての成長を遂げる。旅の帰路の最中、息子と会話する彼の姿は過去のクレイトスとは違い、改めて新しい『ゴッド・オブ・ウォー』が始まったことを実感させられるのだった。
今までとは異なるシステムに爽快なアクションなど、ゲーム自体も傑作というに相応しい出来で、驚きに満ちていた。だが、私はそれ以上にクレイトスの変化に驚かされた。経験を重ね、歳を取ることは時に人を大きく変える。その重みを彼を通じて感じたのだ。
ヤンチャしてた人が、温厚で人情味のある人に。
優しかった人が、冷酷な人に。
人生、経験すること如何で人格は大きく変化する。
多分、私も昔と今とでは別人になっているはずだ。
果たして、それはいい方向に変わったのか。
悪い方向に変わったのか。
今回のクレイトスを見て、そんなことを考えさせられた。
そこそこ歳を重ねたとは言え、まだ人生、先は長い。
何が起こるか分からない。
だからこそ、後悔のない日々を送らないと。
善悪の判断を誤らないようにしないと。
そして、一つの物事に捉われすぎないように。
そこに待つのは、おそらく過去のクレイトス。
色々と肝に銘じた次第でした。
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