うどん総合格闘技」とはなんぞや。

その真相を確かめるべく、私は渋谷へとやってきた。

格闘技と聞いてまず思い浮かべるのは「リング」だが、すでに満席近い会場内にそういったものは見当たらない。どうやら格闘技と言っても、麺棒で互いを殴り合ったり、熱々のうどんを相手の頭の上からぶっかけたりする類のものではないらしい。

では一体何なのか。
想像がつかない。
今までにない、まったく新しい“何か”を目撃できる。

私はそうした期待感を胸に、ビールを煽りながら待った。

と、本イベントのオーガナイザー“白麺士”こと小野ウどん氏がステージ上に現れた。ぽつんと置かれた台の前面には「UDON IS ROCK」の麗筆が踊る。いったい何が始まるのか。

カラフルな照明が降り注ぐ中、ウどん氏は麺棒をさっと取り出すと、性急なビートに乗せて、台の上に置かれた生地をリズミカルに伸ばし始めた。時に麺棒をバトンのようにくるりと回し、時に歌舞伎のような見得を切りながら、しかし熟練の職人らしい精度でもって一心不乱に麺を打ち続けている。

その姿はまるで麺と戦っているかの如し。

ここで私は「うどん総合格闘技」の神髄に触れた。そうか、うどんは戦いなのか。

小野ウどん氏はその淀みない、流れるようなパフォーマンスを、打ち上がったうどんを誇らしげに掲げて締めくくった。勇者たちよ、集え、この艶やかなるうどんの下に。客席からわっと上がる歓声が、うどんバトルの鬨となって開戦を告げる。

DJアフロマンスの操るチューンに乗せて次々と入場してくる、うどん界の勇士たち。背後のスクリーンには“Dr. Udonology”など、けれんみ溢れる二つ名と共にプロフィール画像が映し出されるという、まるでプロレスのような演出によって、がぜん「うどんは格闘技」ムードが盛り上がってゆく。

現役の学生あり、覆面レスラーあり、職人風ありと六者六様のうどんバトラーたち。ウどん氏いわく、「うどんバトル」で競うのは味だけではない。生地の打ち方の美しさや、スピードも問われる。ただ美味しい麺を打つだけでなく、パフォーマンスも重視されるわけで、そこが従来のうどんコンテストとは大きく異なる点だ。中には鉄棒を仕込んで重さを増した、特殊な麺棒を用意してくるつわものものいた。

うどんバトルを判じるジャッジたちも、人形町のうどん屋の名店「谷や」の店長谷和幸氏、フードライターの井上コン氏、「日経エンタテインメント!」創刊編集長の品田英雄氏とそうそうたるメンバーが顔をそろえる。一回目の開催ながら、中途半端なことをやるつもりはないというオーガナイザーの気迫が伝わってくる布陣だ。

こうして始まった、おそらく世界初のうどん打ちバトル。

一度に三人ずつが、ステージ上でうどんを打っていく。見ていて分かったのは、うどんを打つという行為には思いのほか、個性が反映されるということだ。こねて、伸ばして、切るという単純なアクションの組み合わせに思えるが、その方法論はまさに千差万別。生地を丸く伸ばす者もいれば、四角く伸ばす者もいる。生地に対して正対する者もいれば、斜めに構える者もいる。与えられたスペース内、いわば自身のステージ上で各々がそれぞれの技を繰り出しながら、激しくうどんを打ち合う光景はまさしく“試合”であり、やはり「TEUCHI」は格闘技なのだと再認識する。

うどんの切り方も、マイ麺切り機を持参する者や、昔ながらの麺切り包丁を使う者がおり、さらに麺を切る太さも選手によってまったく違っていて、気が付くと、私はひとつのうどんから生まれる百花繚乱のバリエーションに圧倒されていた。

熱いうどんバトルに続いて審査が行われ、初代王者が決まり、2時間半に及んだ史上初のうどん総合格闘技はあっという間に幕を閉じた。

「TEUCHI」は期待していたとおり、まったく新しい体験だった。唯一残念だったのは、実食審査に参加できるチケットを確保できず、美味いうどんが次々と茹で上がっているのに、一杯のうどんにもありつけなかったことだ。

次回は試食チケットを入手したうえで臨みたいと強く誓った。

(取材日:2018年12月6日@東京カルチャーカルチャー)

 

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本サイトの編集長を務める、猫。普段はフリーの翻訳屋さん。翻訳タイトルは『RUINER』『Owlboy』(ゲーム)『ミック・ジャガー ワイルドライフ』(書籍)『私はゴースト』(字幕)など。連載「映画ホルマリン漬け」「猫の国」