~スティックシュガー、めっちゃ増える問題~■旅の仕事■
……旅。実に爽やかで心踊る響き。余談だけれど、旅行とかトラベルとかよりも『旅』という言葉のほうが、神秘的でノスタルジックな気がする。落語家という職業に従事している配偶者の大事な業務のひとつに、【旅の仕事】がある。業界用語とおぼしき落語家の【旅の仕事】ってなんだろう。……なんということはない、要するに地方巡業のことでございます。

■けっこう多いぞ旅の仕事■
地方巡業、というと一大イベントに聞こえるけれど実はこれがわりに高頻度で発生する。我が家の落語家は月あたり、だいたい3回程度は【旅の仕事】に出かけていく。内容としては、温泉地の定期イベントや地方自治体の主催する中学生向けの落語教室、あるいは地方のイベントホールで開かれる落語会。『博多天神らくご祭り』という毎年福岡で開かれるビッグイベントには、彼が前座(下働きみたいなものだ)のときには毎年出かけていたし、二つ目(下働きをしない修行中の落語家)になってからも亡くなった某師匠のご指名で身辺のお世話のために駆り出されていた。北海道にも何度も出かけているし、「明日は朝から秋田だから」という重要情報を前日の深夜に聞かされたりもする。早く言えよ。

■まさかの日帰り■
さて、「明日は秋田」「来週は青森」という話をするとよく言われることがあります。「落語家さんは仕事で旅行できていいなぁ~」と。たしかに、日本全国を話芸一つで飛び回っている配偶者は、なかなかに貴重な体験をしているのかもしれないが――そこには大いなる勘違いがある。実は、基本的に【旅の仕事】の多くは日帰りなんです。

そう。発達しているのですよ、交通網が。

昔々の大昔は、何週間もかけて地方を文字通り巡業して夜は温泉街で宴会なんていう気前のいいこともあったそうだ。しかし、この平成の世には飛行機やら新幹線やらが牙を剥いている。……利便性の暴力である。落語界を主催する興行主さんも、基本的には日帰りを推奨する。宿泊費や交通費は原則として興行主持ちとなるからだ。出演する落語家を一泊させるとコストが倍以上かかるわけである。

配偶者は今日も追われるように東京に帰ってくる。このあたりは、サラリーマンのおじさまがたが「昔の出張は良かった……」とぼやいていらっしゃるのと同じでありますね。

落語家の配偶者としては、旅先で何して遊んでいるのか分からないよりもショボショボと帰宅してくれたほうがなんとなく安心な気もする。向こうがどう思っているのかはわからないけれど。

■スティックシュガーめっちゃ増える問題■
そういうわけで、旅の仕事は時間との闘いだ。大急ぎで現地に向かい、落語会を成功させ、そして追われるように新幹線や飛行機に飛び乗る。そういうわけで、「お土産買ってきてね~」と見送った配偶者が実際にお土産を現地でゲットして帰ってくる確率は低い。現状の勝率は五分五分だろうか。お土産屋さんを見る暇もなく帰路につくことも多いのですね。

しかし。そういうときに、配偶者は優しい男だから気を利かせるのだ。帰りを待つ家族に何かお土産を……そんな気持ちからかどうかは知らないが、旅の仕事から帰ってきた配偶者はたいがいスティックシュガーを持って帰ってくる。楽屋や新幹線、飛行機の機内で出されたコーヒーについていたものを、わざわざ持って帰ってきてくれるのである。落語家は砂糖に困らないとは、結婚するまで知らなかった。なおANAのスティックシュガーの在庫は、ただいま18本である。こんなにいらない。

■落語家グルメ~旅の仕事編~■
それでもたまには宿泊つきの旅の仕事もあるわけで。
最後に、落語家というからにはきっとご当地の名物とかそういうのを食べているのだろうな~~、と想像していた私に送られてきた写真を最後に紹介しようと思う。めっちゃ洋食だし、めっちゃ量が多い!!!!!!!!!!!!!
……なお、配偶者はこの7年で合計20㎏前後太っている。旅の仕事との因果関係は不明である。

蛙田あめこ

小説書きです。蛙が好き。落語も好き。食べることや映画も好き。
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連載エッセイ:スローな落語家と暮らしてる