今回はちょっと変わった作品をご紹介したいと思います。ただその前に、私がその作品を観て思い返した自分にまつわる話をさせてください。

私は去年、星新一賞という文学賞に作品を提出し、ありがたいことに入賞をさせていただいたことがあります。これは私にとって大きな転機でした。そのまま少し調子に乗ってIGN JAPANというサイトに好きなゲームタイトルに関するコラムを送りつけてみたのです。おそらくそれがある程度うまく書けていたことで仕事をいただけるようになり、結果として今こうしてここで連載を書かせていただいているところです。

とはいえ、私自身に物語を創るセンスが備わっていたとは全く考えていません。未経験だった私は小説を書く上で、有名な物語の構造を引用しようと考えました。映画を観るのが趣味で、その頃は時系列ごとに細かく物語の要素を分割するということをしていたので、面白い映画のフレームワークを借りれば自分にも何か書くことができると思ったのです。参考にしたのはヒーロー映画でした。

『アイアンマン』を代表するMCU(Marvel Cinematic Universe)作品は、ほぼ全ての作品が実は同一のストーリーを描いています。必要なのは二項対立、アイアンマンであれば平和と軍事、ドクター・ストレンジであれば医学と魔法といったように、ヒーローは最も大切にしていた価値観を捨て、パラダイムシフトをすることで“強く”なることができます。先日公開された『インフィニティー・ウォー』では、全員を救おうとして滅びるか、救出可能な一部を助けるかという究極の二項対立を描いていますね。

私は万人が好むこの魔法の方程式に当てはめて人を救う物語を創りました。何が言いたいかといえば、ジャンルには必ずそれを満たす構造がつきものです。第2回で紹介した2本の映画も、子供が大人になる成長譚として共通する構造を持っていましたね。

でも、こういうところに気がつくようになると創作には役立ちますが、純粋に楽しむ機会は減るかと思います。一度身につけてしまうともう元に戻れませんし。

一方で、そうしたジャンル付けによって型にはめられてしまうことを嫌う創作者がいることも事実です。その代表的な作品への現れとして『Braid』というビデオゲームが挙げられるでしょう。

『Braid』は『スーパーマリオブラザーズ』に代表するプラットフォームアクションですが、いつでも時間を巻き戻すことが可能で、実質ゲームオーバーがないことが特徴です。私がこのゲームを最後までプレイして感じたのは、製作者のゲームに対する愛憎でした。ゲームは自由である一方で、私たちは多くの“当たり前”に縛られているんだぞ! という脅迫めいたメッセージを受け取った気がしています。例えば、ゲームはかなりの割合で「善人が悪人を暴力によって懲らしめる」という枠組みに縛られていると思いませんか?

話は大きく飛びますが、M−1グランプリ2010の決勝戦も忘れることができません。そこでジャルジャルというコンビが披露したネタとその顛末は、いまだ鮮明に覚えています。

五分程度の短いものなので機会があれば是非ご覧いただきたいのですが、そのネタからは明らかに「漫才」というジャンルに対する彼ら二人の非常にニヒルな感情が表出していました。「漫才」を研究しつくしてしまったからこそ達した、ある種の境地でしょうか。諦めともいっていいような彼らの叫びには、私だけではなく採点者たちすらも驚かされていたように思います。

Allumette(アリュメット)』は、そうした「ジャンルが抱える枠組み」を冷静に俯瞰し、うまく利用した作品のように思えます。本作は『マッチ売りの少女』をモチーフとしたVR専用の映像作品です。30分にも満たない人形劇のような体験ですが、VR専用の映画として観ておく価値があることはもちろん、描かれる「親子愛」のテーマは美しく、視聴後は感傷に浸らざるを得ません。

でも驚くべきことに、本作にはセリフも、複雑な表情などの演技も、ましてやカメラワークすらありません(VRですからね)。おそらく必要ないのでしょう。本作は愛を語る上で必要なポイントを、記号化しつつも確実に抑えています。だから私たちは物語を観賞して、じんわりといい気分になることができるのではないでしょうか。

一方で、この物語にセリフなどが存在しないことにはちゃんともう一つの意味があります。それは親子のつながりに、わかりやすいインタフェースは必要ないということ。母と子は言葉がなくても分かり合うことができます。そういえば、私の体調が悪い時には母もすぐ気がつきますし。

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あでゆ

自然言語屋。プログラミング言語屋。器用貧乏に色々。
第5回星新一賞・入賞。公式サイトはこちらから
連載エッセイ:隠れ名画のすゝめ