『野ねずみハツラツ六つのぼうけん』

野ねずみハツラツ六つのぼうけん』(童話館出版)という本を読んだ。

タイトルのとおり、野ネズミのハツラツくんが手作りの舟で旅に出る。という可愛らしい作品である。

そしてまたもタイトルどおりであるが、物語は六つの構成になっている。どれもハツラツくんの危機一髪、手に汗握るハラハラドキドキの大ぼうけんなのであるが、その中の《第五のぼうけん》の中にこんなシーンがある。

ハツラツはひょんなことからトラックのじゃがいものふくろの中でねむってしまい、気がつくと街の中のとある食品店にまで行ってしまう。

そこでハツラツが目にするものは、初めて見るたくさんの美味しそうなにおいのする食べ物たちであった。

『ウェイス夫人のヒメウイキョウ入り しおづけキャベツ』

『ニシンのからしづけ』『サラミソーセージ』『ぺぺロニィソーセージ』『デンマークベーコン』『オランダクリームチーズ』『ドイツクリーズチーズ』『ブランデーづけのスモモのびん』『黒スグリのジャム』『ライムマーマレード』『キイチゴゼリー』『トルコビスケット』

などなど、数えてみると、この章だけでもなんと四十九種もの食べ物が登場する。

味がわからないようなものがあるけれど、しかしだからこそ「なんだろうこれ、うまそう!」などと僕はシアワセな想像をぐんぐんと膨らませてしまう。

美味しそうな食べ物が出てくる本というのは、読んでいるだけ食欲がわいてくる。下手すると、写真や映像よりも「ごくり」と生唾が出てくるようなものが登場するものがあるからすばらしい。

児童書でそんな食べ物たちがあらわれるもの(そういうエッセイなのである)と言えば『はらぺこあおむし』(偕成社)だろう。

説明は不要かもしれないけど、物語は木のはっぱの上に産まれた小さなあおむしが、食べ物を探して歩いていき、たっくさんの食べ物をおなかいっぱいに食べて、動けなくなってしまい、その後きれいなちょうちょになるというものだ。

「この中に出てくる食べ物たちの美味しそうなことといったら!」

などと僕はついつい声が大きくなってしまうくらいである。テーブルをバンバン叩きながら言うかもしれない。

「もう長いこと見てないなぁ」なんていう方、今一度この本を読んでいただきたいものだ。

こんなに食べ物が美味しそうに、可愛らしく、色あざやかに描かれている作品は存在するのだろうか。ぱっとページを開いただけで幸せになってしまう。もりひさしさんの訳もまた良いんだなぁ。

ほかに有名どころでいくとやはり『大きな森の小さな家』(福音館)の鹿肉のくんせいや、豚を一頭捌いた時に出てくる、しっぽを焼いたものやソーセージ、たっぷりのグレービーソース、木に穴を開けて取るメイプル・シロップ。『エルマーのぼうけん』シリーズ(福音館)のみかん島のたくさんのみかん(僕は幼いころ食べすぎて手足が黄色くなるくらいみかん狂いだった)、そしてりゅうの食べるスカンクキャベツ。『からすのパン屋さん』(偕成社)の様々な形のパン、『ぐりとぐら』(福音館)の大きなたまご。

と、この文章を書きながら思いだしたのは幼いころ読んだ『ふしぎなおきゃく』(ひさかたチャイルド)という絵本の、うさぎが作るラーメンだった。あるラーメン屋に、いつも一口だけラーメンを食べにくるふしぎなおきゃくがやってきて、あまりのふしぎさに店主がある日つけていくと、おきゃくだったうさぎがラーメン屋をやっていて、店主の味そっくりのラーメンを出している、という絵本だ。なんだかこう書くと現代社会だと裁判沙汰になりそうな話だなんて思ってしまう汚れた僕がいる。実際はとても面白い名作なのです。……ああ、ラーメン食べたいなぁ。

そういえば江國香織さんの『やわらかなレタス』(文春文庫)というエッセイの中で『「ぶどう酒」というものが、大人になってのんだどんなワインにも全く似ていない気がする』なんて話があって、僕は「わかるわかる!」と膝を打った。

特に「ぶどう酒」で思いだすのは、幼いころ、病院の診察待ちで母に読んでもらった『黄金のがちょう』という絵本だ。この絵本の中に登場する、おいしく焼けたパン、上等なぶどう酒、そして、すっかり硬くなったパン、すっぱくなったビールというのは、どちらも幼かった僕の心に突き刺さった。

「どんな味なんだろう!」

そして僕はシアワセな想像を広げた。

しかし、やはりこの世に想像にかなうものはない。

皆様もこの秋、シアワセな想像をいかがでしょうか。

(c) 童話館出版

笹原智也

本と映画と音楽と酒が好き。楽しい文章を目指します。
連載エッセイ:ちるどれんずぶっく・ふぉーえばー
遊び/ギター/アウトドア