『ムカデ人間』という映画がある。

一度聞いたら忘れられない、インパクトのあるタイトルだし、ここ日本でも数年前にヒットしてシリーズ化されたので、未鑑賞でもご存じの方は多いだろう。

実はこの作品、同じ翻訳者の方が3作すべての字幕を手がけている。岩辺いずみさんだ。

そこでこのカルトムービーの殿堂入り間違いなしの、映画史に残るエキセントリックなホラー映画を、おそらく熱心なムカデフリーク以上に繰り返し鑑賞しているはずの岩辺さんに、『ムカデ人間』に携わるようになった経緯や、役割語のこと、字幕翻訳という仕事のやりがいについてなど、幅広く話をお伺いした。(初掲載時の前・中・後編を一本にまとめてあります)

最初はどんな映画かよく分からないまま、引き受けたんです。

とら猫(以下、猫):いきなり本題に入りますが、『ムカデ人間』(原題『The Human Centipede』)のお仕事はどういった経緯で引き受けられたのでしょう?

岩辺(以下、岩):最初は電話でお話をいただき、「結構グロいんですけど、大丈夫ですか?」と訊かれました。「人がつながっちゃうんですけど」と。それから「つながるってどんな風に?」「いや、お尻と口が…」みたいなやりとりがあって、どんな映画かよく分からないまま引き受けました。

猫:確かに「人がつながる」と言われても、イメージしにくいですよね(笑)。

岩:そこは駆け出しの頃からお世話になっている会社で、最初にいただいたお仕事がチャールズ・マンソンなどを描いたアメリカの殺人鬼シリーズ(注:『シリアルキラー・ファイル』、今をときめくジェレミー・レナーも出演)だったので、エログロの耐性はできていました。だから「またか」くらいの軽い気持ちでいたんです。

猫:まあ、お仕事ですしね。長いお付き合いのある会社なら、余計断れません。

岩:それでも実際に映画を観た時は、さすがにビックリしました。「なんじゃこりゃ!?」という感じで(笑)。

▲こんなふうにつながります。

猫:そりゃ、驚きますよね。実はタイトルどおりの映画なんですけど(笑)。

岩:ただ、エキセントリックなものは元々嫌いじゃなく、中途半端なものよりは振り切っているほうがいいので、作業中はけっこう面白がって訳していました。字幕の量も極端に少なくてラッキーでしたし(笑)。

猫:基本的には「狂った博士がムカデ人間を作って、さあ大変」というだけの映画ですからね。宣伝では「医学的に100%正しい」と謳っていましたが、かなり怪しかった(笑)。

『ムカデ人間』はダメな人は一生受け付けられない、掛け値なしの変態映画なんですけど、映画的には意外としっかり作られているんですよね。撮り方もこなれていて、ちゃんと商業的なエンタメになっている。ただの変態映画とは一味違うんですよ。

▲記念すべき一作目の日本版ポスター。

『ムカデ』のヒットは意外でしたが、人生で初めてもらった大入り袋は今でも大切に持っています。

猫:そんな『ムカデ人間』はプロモーションの妙もあって、日本でブームを巻き起こしましたが、その時はどのように感じたでしょうか?

岩:なにしろ内容が内容ですし、まさか劇場公開されるとは思っていなくて。字幕をつけた作品がそのままDVDになるケースも多いので、『ムカデ』もDVDになって終わりだろうと考えていました。

猫:完全に油断していたわけですね。

岩:映画が公開されると聞いたときは確か、「名前は出さなくていいです」と言った気がします(笑)。

猫:そんな、もったいない! 自分だったら戒名に“百足”と入れたいくらいですよ。ということは、劇場公開版にはいずみさんの名前はクレジットされていなかったんですか?

岩:劇場へ観にいく勇気もなかったので確認していませんが、DVD版に関しては、しっかり名前が入っていました。

猫:晴れて『ムカデ人間』の翻訳者として、世に知れ渡ったわけですね。

岩:正直、これだけヒットしたこと自体が意外だったんですけど、それでも人生で初めて大入り袋をもらって、それは純粋に嬉しくて今でも大切に持っています。字幕とは関係ないですが、『サウスパーク』でネタになっていたのも妙に嬉しかったな。

▲これが大入り袋だ!

▲『ムカデ人間』をネタにした『サウスパーク』のエピソード。例によって危ない。

猫:やっぱり自分が関わった作品が話題になると、嬉しいですよね。

岩:はい。自分のキャリアを語る上では、最高のネタになりますしね(笑)。

猫:ちなみに字幕界の超ベテラン、松浦美奈さんはその昔、最強のカルト映画『死霊の盆踊り』を訳されています!

パート2の話が来た時、一度は断ったんです。

猫:こうして『ムカデ人間』は世界各地で反感を買い、上映禁止処分を食らいながらも大ヒットし、監督の思惑どおりパート2、パート3が作られることになりました。

前作を担当したいずみさんへも当然のごとく、字幕の依頼が舞い込んだわけですが?

岩:確かパート2の話が来た頃は忙しくて、一度断った気がします。

猫:えっ、それは困る。

岩:それでも「せっかくなら同じ翻訳者で」ということで納期を延ばしてもらい、結局は引き受けましたが。まあ、単純にやる人がいなかったんじゃないかと(笑)。

猫:確かに私のやっているゲームの翻訳でも、続編から担当するというのはやりにくいものがあります。それがあのクセの強すぎる『ムカデ』の続きとなった日には、普通は腰が引けてしまうかも(笑)。

岩:パート3の時にはもう、「ここまで来たら3本とも訳してやる!」という気持ちで固まっていました。最後だけ別の方に訳されてしまうのもイヤですし。負けず嫌いなので(笑)。結果的には3部作を完走できてよかったと思っています。

猫:お疲れさまでした(笑)。

見直しも最小限で済むように、いつもより集中して訳せたかもしれません。

猫:その『ムカデ人間2』はただでさえ強烈な本シリーズ中でも、特に攻めている作品となっています。私はグロいのは全然オッケーなんですが、汚物系のネタが実のところ苦手でして。パート2は最後まで観るのがなかなかつらかったのを覚えています。

▲さらなる数のムカデがつながるパート2

とは言え、仕事で字幕をつけるとなると、どんなにグロくて嫌悪感をもよおすシーンでも、繰り返し観なければなりませんよね?

岩:そうなんです! パート1の時は新鮮でしたし、衝撃を受けながらも面白がれる余裕がありましたが、パート2はきつかった。監督の悪意を感じるし、これでもかと不快なシーンが続くので、早く手放したい気持ちが強かったです。その割にはセリフがそこそこあるし…(笑)。

私もエログロには慣れているほうで、フィクションはフィクションとして割り切れるタイプなんですけど、子供が犠牲になる場面と、レイプのシーンはやっぱり見たくない。汚物もきついですけど、パート2は白黒なのでまだ何とか…いや、ならないか(笑)。なるべく感情移入しないよう、石と化して訳していました。見直しも最小限で済むように、いつもより集中して訳せたかもしれません。

▲シリーズ屈指の地獄絵図が繰り広げられる2作目

猫:それは怪我の功名かも(笑)。ちなみに主人公マーティン役のローレンス・R・ハーヴィーさんは梶芽衣子の大ファンという親日家なんです。70年代の日本映画のビデオをコレクションされているそうですよ。

パート3は「祭りだ!」みたいな感じで、はじけて訳しました。

猫:そしてパート3ではうって変わってコメディ調となり、ムカデ人間も無事、シリーズ最長サイズでつながるわけですが、3部作を完走して感慨なようなものは覚えましたか? 本作をやり遂げたことで仕事や、生活周りで変化はあったでしょうか?

岩:パート3はもう「祭りだ!」みたいな感じだったので、はじけて訳しました。出ている役者さんたちも、はじけまくってましたね。

猫:一作目でハイター博士を演じたディーター・ラーザーが、刑務所の極悪所長役で出演しているんですが、ノリノリですよね。すごい楽しそう。同じく一作目でムカデの“先頭役”を務めた北村昭博さんもカムバックしていますし。最後のムカデをみんなで盛り上げようという一体感が伝わってきます。

岩:パート2で終わっていたらつらかったけど、パート3で救われた気がします。3部作を訳したことで思い入れができたし、やりきった感はありますね。

猫:監督も十分すぎるほど、ムカデをつなげたでしょうしね。

岩:『ムカデ人間3』の公開前に渋谷へ行ったら、JR駅の構内に映画のポスターがドーンと貼ってあったのには驚きました。延々とつながってるやつです。

猫:これですね。

▲実際、劇中でもこれくらいつながる

岩:そこに翻訳者名もそれなりの大きさで載っていて、思わずその場で叫びましたが、しっかり写真は撮っておきました(笑)。

なんだかんだ言って、翻訳した作品が注目されるのは嬉しいです。生活や仕事周りでの変化は特にないですね。あったら困るかも(笑)。

猫:無性に何かをつなげたくなったり(笑)。

岩:最近大学生になった長男に「ムカデの映画を訳したんだよね? 見たい」と言われましたが、全力で拒否してます。いちおう母親のイメージは守っておかないと!

猫:たぶん、陰でもう観てますって(笑)。

他の方がもし4作目を訳したら、悔しくて眠れないかも(笑)。

猫:『ムカデ人間』はこの3部作で一応の完結を見たわけですが、仮に4作目があるとしたら、また字幕を引き受けたいですか?

岩:引き受けたいです、負けず嫌いなので! 他の人が訳したら悔しいですね。しかもそれがいい訳だったら、きっと眠れない(笑)。

猫:「名前を出さないでくれ」とお願いしていた一作目の頃に比べると、心境の変化が著しいですね(笑)。しっかりとムカデ愛を育まれたようで。けどまあ、他にやりたがる人もいないと思いますし、次があるなら絶対にいずみさんですよ!

▲パート3はみんなノリノリ

どんなジャンルの作品でも、訳していくうちにその世界へ入っていくほうです。

猫:いずみさんはこの『ムカデ人間』や『』といった過激なホラーだけでなく、ヴィム・ヴェンダースの『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』のようなドキュメンタリーから、シリアスなサスペンスの『ブルー・リベンジ』、最近では『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』といった実話ドラマの大作まで、幅広いジャンルの字幕を手がけています。ジャンルによって、仕事へ取り組む際の違いはありますか?

▲テニス界の伝説的な“男女対抗マッチ”を描いた『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』

岩:ジャンルによる取り組み方の違いは、それほどないですね。気持ち的に、そのモードに入るくらいでしょうか。意識的に切り替えるというより、訳していくうちに、その世界に入っていくという感じです。

猫:それは興味深いですね。私は異なるジャンルのゲームを訳す時、意識的に頭を切り替えるので。別人になったような感じで。フォントも変えたり。帽子も。

岩:ただ、視聴者層は意識します。それによって言葉遣いを変えたりとか。クライアントによる仕事のやり方の微妙な差異や、訳の好みにも気を配りますね。

あとは配信か劇場公開か、地上波かCS放送かといった媒体によって、訳し方も変わってきます。『ムカデ人間』や『肉』は同じ制作会社で、言葉の制限も少なかったので、かなり自由に訳させてもらっています。

▲“神の眼”を持つと言われる写真家の実像に迫るドキュメンタリー

岩:『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』は公開未定の状態で訳したのですが、公開されることを視野に入れ、差別用語などの訳語には気を遣いました。劇場公開される作品では、字幕1枚(一度にスクリーンに表示される字幕を1枚、2枚…と数えます)の字数を少なめにするよう心がけています。映像と字幕を一目で見られるテレビの画面とは違い、大きなスクリーンでは字幕と映像を別々に見ることになるからです。

かなり気をつけて訳してはいるのですが、実際にスクリーンで見た時には「まだ字数が多いな」と反省することはよくあります。難しいですね。

猫:字幕翻訳は独特ですよね。私もかつて『私はゴースト』という映画に字幕をつけた際、自分では相当短めに訳したつもりでも、初稿では上限の5倍くらいの文字数になっていて。「こんなの2行に収まらないよ!」と叫びながら、必死で原稿を縮めた記憶があります。字幕翻訳の方は毎回こんなことをやっているのか! と驚がくし、一介の映画好きとして、感謝の気持ちが湧いてきたのを覚えています。

70年代が舞台の実話なので、時代を意識してあまり言葉を崩さないようにしました。

猫:『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』は私も鑑賞しましたが、素晴らしい作品でした。本作の字幕で何か気をつけたこと、苦労したことなどあれば教えてください。

▲俳優陣の演技が素晴らしい『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』

岩:見ていただいて、ありがとうございます。重いテーマを扱っていながらエンタメに徹していて、最後は余韻も残して考えさせる良作ですよね。テニスシーンも胸熱ですし! 私も大好きな作品です。

猫:最後のラリーは手に汗握りますよね! あと役者さんのなりきり具合がすごい。

岩:70年代が舞台の実話なので、時代を意識してあまり言葉を崩さないようにしました。ビリー・ジーン・キングの手記やインタビューの動画から、かっこよくてしなやかな女性という印象を受けたので、それも念頭に置いて訳しましたね。

テニス用語も多かったので、テニスに詳しくない方でも違和感なく見られるよう心がけました。専門用語のバランスは常に悩ましいです。調べていると知った気になって、難しい言葉を入れたくなりますが、そうすると視聴者が置いてきぼりになることもあるので。

猫:そういった言葉のチョイスは翻訳における永遠の課題ですよね。同じことを伝えるための表現は星の数ほど存在するのに、その中から毎回、“自分では”ベストと思われるものを選択しないといけない。綱渡りみたいな稼業だなと、いつも思います。

岩:少し前にツイッターで女性の役割語(特に「よ」「わ」「ね」などの語尾)について盛り上がっていて、この作品についても「LGBT(Q)の話なのに役割語を使うなんて、分かってない」というコメントがありました。

猫:ほう。

岩:私はLGBTQだからといって役割語を排除するのは不自然だし、ないとぶっきらぼうになってビリー・ジーンのしなやかさが消えてしまうと思っています。で、ツイッターのコメントを読んでモヤッとしている気持ちの時に、とら猫さんがツイッターで「いにしえの役割語使いたちは…(役割語が滅びた)味気ない世界に役割語を取り戻す旅へ出るがよい」とつぶやいていたので、全力で「いいね」&リツイしました(笑)。あのコメントのおかげで胸がスッとして、ありがたかったです。

▲70年代の話とは思えない、現代にも通ずる普遍性をはらむ

猫:それは知らなかった(笑)。だったらつぶやいた甲斐がありましたね。

役割語については誰もが一家言を持っていて、とうていこの場では語り尽くせないのですが、ノンフィクションはともかく、少なくともフィクションはフィクションで楽しめばいいじゃない、というのが私のスタンスです。

それでも、役割語が消えていく流れは止められないとも思っていて、その時に備えて役割語を磨いておけば、役割語が本当に求められるフィクション作品…例えばファンタジーといったジャンルの仕事が、いにしえの役割語使いのもとへ舞い込んでくるようになるのではないかと割と真剣に思うんですよ。

岩:フィクションはフィクションで楽しむ…本当にそのとおりだと思います。役割語は記号みたいなもので、一瞬でキャラを伝えることもできる。だからこそ、使い方に気をつけなきゃいけないんですが。私もいにしえの役割語使いになるべく、鍛錬します!

練り上げられた脚本は訳しがいがあって、ゾクゾクしますね。

猫:個人的に印象的に残っている仕事はありますか?

岩:終わった仕事は忘れてしまうほうなので、最近の仕事ばかりになってしまいますが…現在シーズン3までNetflixで配信されている金融ドラマ『ビリオンズ』は、毎回苦労して訳しているので、思い入れが特に深いです。

猫:金融ジャンルは難しそうですね…

▲岩辺氏おすすめの金融業界をテーマにした群像劇『ビリオンズ』

岩:しかも、ポール・ジアマッティとダミアン・ルイスを中心に描かれる群像劇なので、登場人物が多いし、伏線が多いし、セリフは凝っているし、引用は多いし、金融用語がこれでもか! とバンバン出てくるので、1シーズン終わると廃人になります。

なので毎回シーズンの初めは「絶対に訳せない!」と思うんですが、いざ訳し始めると「これを訳してる自分すごい」ゾーンに入れるところがあって(笑)。

猫:「あーこれお手上げ」という箇所でも、一晩寝たら、なぜか訳せるようになっていたりしますよね、翻訳って。

岩:『ビリオンズ』の練り上げられた脚本は訳しがいがあって、ゾクゾクします。私は字幕担当ですが、金融の監修者、吹替翻訳チーム、担当者も一丸となって訳しているので、ぜひ見てください!

猫:『ビリオンズ』以外ではどうでしょう?

岩:最近手がけた映画では、カナダの『さよなら、ぼくのモンスター』や、アイスランドの『ハートストーン』、フランスの『ぼくを探しに』の世界観が好きですね。息子が2人いるせいか、少年(『ぼくを~』はもう少し上ですけど)の葛藤や成長を描いた作品には、つい感情移入してしまいます。

▲『ムカデ』の面影はみじんも見られない、当然だが

猫:そうでした、フランス語のお仕事もされているんですよね。私には『ムカデ人間』のいずみさんなので、ムカデムカデ言って申し訳ない(笑)。

けど、2言語を取り扱えると仕事の幅も広がるし、競争力という点では大きそうです。

岩:ちょっと話はそれますが、高校の時にカナダへ交換留学をしていて、その学校にアイスランドからの留学生がいたんです。アイスランドの映画を訳す時は、いつも彼を思い出していたんですが、先日フェイスブックでつながったんですよ。

猫:ええ、それはすごい!

岩:おまけに、私が翻訳した作品に彼が出ていたことが分かったんです! 今は警察官をしていて、知り合いから監督を紹介され、警官役でちょこっと出たのだと。高校生の頃はマコーレー・カルキンみたいにかわいかったんですが、今はかなり貫禄がついて気がつきませんでした。言われてから「あれか~!」と。驚きましたね。

猫:かわいかったですもんね、マコーレー・カルキン(笑)。

岩:それと最近、久しぶりにエロ系の作品を訳したんですが、夏休み中だったので息子たちに見つからないように作業するのが大変でした。

作業中に足音が聞こえると画面を切り替える、みたいな。あとは夜中にこっそりやったりとか。エロ本を見つからないように隠す息子状態でしたね(笑)。

猫:それも絶対バレてますって(笑)。

制限をクリアして、映像とピッタリ合う字幕を作れた時は最高に気持ちがいいんです。

猫:最後に、字幕翻訳のやりがいって何でしょうか?

岩:字幕翻訳の面白さは、制限が多いことですね。字数制限や差別用語や、漢字やカナの表記など、そういう制限があるから燃えるというか。制限をクリアして、映像とピッタリ合う字幕を作れた時は最高に気持ちがいいんですよ。

猫:なるほど、パズルみたいに。

岩:字幕って完成品に付け足すオマケというか、欲しくない人も結構いると思うんです。原音で作品を理解できる人にとっては「字幕なんて邪魔だ」みたいな。

けど「字幕があってよかった」と喜んでくれる人がいるかぎり、その人たちのために全力で字幕を付けたいと思います。素晴らしい作品にもそうでない作品にも大勢の人が関わっていて、たくさんの想いが詰まっている。そこにたとえ末端でも付け足しでも関われるのは、心から幸せですね。

そこに仕事があるかぎり、字幕翻訳を続けていきたいと思います。

【ゲストプロフィール】
岩辺いずみ:英・仏字幕翻訳者。担当作品は『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』『ルック・オブ・サイレンス』『さよなら、ぼくのモンスター』『ハートストーン』『オレの獲物はビンラディン』『世界にひとつの金メダル』『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』『ぼくを探しに』『イーダ』『ムカデ人間』三部作など多数。

(c) 20世紀フォックス、(c) 2015 ONTARIO INC. CLOSET MONSTER INC., (c) Showtime Networks, (c) Netflix, (c) 2009 SIX ENTERTAINMENT, (c) トランスフォーマー, (c) RESPECT=トランスフォーマー(C)2009 SIX ENTERTAINMENT, (c) Comedy Central, (c) Comedy Partners, (c) South Park Studios

本サイトの編集長を務める、猫。普段はフリーの翻訳屋さん。
連載エッセイ:映画ホルマリン漬け猫の国
翻訳タイトル:『RUINER』『Owlboy』(ゲーム)『ミック・ジャガー ワイルドライフ』(書籍)『私はゴースト』(字幕)など。