~家人は落語家~■最近、落語家と暮らしてる■
三年前に結婚した配偶者が、落語家だった。

……というと、初対面の仕事相手との会話はもう勝ったも同然だ。
目の前の地味な顔立ちの女が、とたんに「落語家と暮らしているヤツ」になるのだ。
お堅い職業の取引先が多いので、どなたも一様に「おいこいつマジか」という表情を0.2秒くらい浮かべる。
彼らの脳裏に浮かぶのは、例の日曜の夕方に行われている座布団争奪戦だろう(ちなみにそれは落語じゃなくて、大喜利《おおぎり》だ……とは言いにくい)。

「家でもさぞかしよく喋られるんでしょう?」

とか言われたりする。
そんなことはない。私の方がよっぽどよく喋るくらいだ。

我が家の落語家は、家事の合間に多肉植物を育てたり、築45年木造家屋の天井を眺めたりしている。
外出と言えば、趣味でやっている拳法やら趣味と実益を兼ねた日本舞踊のお稽古が多いようだ。
そして、週のうち何日かは本当にお客様に落語を一席申し上げに出かけていく。

配偶者は、なんとなく和風のものが好きだ。
手作りとか、そういうスローライフ的なものも好きだ。
たぶん、落語家になったのもなんとなく和風なものが好きだということも影響しているんじゃないかと思う。

どれくらい彼が和風っぽいのが好きかというと、どうやら大学時代はチョンマゲを結っていたらしい。
それを聞いたときはさすがに耳を疑ったし、「おいこいつマジか」と思った。

■ラクゴカは希少種の部類■
夫が落語家というのは、どういう感じなのか。
一言でいえば「普通」だ。家事は分担制、家計も割り勘、お互いに仕事をしている。なんてことはない、共働きの家庭である。
ただちょっと、配偶者の勤務形態が不規則かな……というくらい。

しかし。
週刊ダイヤモンド2016年7月9日号によると全国に落語家は800人。
800人もいる、のか。
800人しかいない、のか。
2017年にスマトラ島で発見された新種のオランウータンが800頭で絶滅危惧種とされている。うん、800人は希少だ。

希少種の生態というのはやっぱり気になるようで、

・どういう生活リズムなの?
・落語家ってどうやってなるの?
・やっぱり普段から面白いの?

などなど、色々と尋ねられることは多い。
ときには、「収入ってどれくらいなんです?」とフェイストゥフェイスで聞かれることがあって面食らう。えっ、それ面と向かって聞きます?

でもたしかに他人のウチの事情というのはなんとなく知りたいものなような気がするし。
包み隠さず「ダーリンは今年もわたしの扶養家族です」とお答えするようにしているのだけれど、そこでいつも気まずい空気が流れるのだ。じゃあ聞くなよ!

そういうわけで。このエッセイでは落語家と暮らすというのはどういう感じなのか、落語家ってどうやって生きてるのか。
スローな落語家である配偶者の生態と、わたしの趣味である落語に登場する『落語メシ』のレシピを通してゆるゆるとお伝えしようと思っております。

蛙田あめこ

小説書きです。蛙が好き。落語も好き。食べることや映画も好き。
WEB小説『女だから、とパーティを追放された魔導師はレベルMAX魔法剣士に転職して伝説の魔女と最強パーティを組みました』の書籍化準備中です。
連載エッセイ:スローな落語家と暮らしてる