喫茶店が好きだ。カフェでなく、あくまでも喫茶店。

岐阜県、愛知県は喫茶店文化が根付いているが、まさにその県境出身だということもあり、子どものころから喫茶店に行くのは日常だった。その愛知県一宮市が発祥らしい喫茶店の“モーニング”というシステムは、いまでは全国にあると思う。ただ、地元ではコーヒー1杯の値段でトーストやサラダやゆで卵だけでなく、何ならごはんやみそ汁や何かしらのおかずまでついてくるところもある。さすがに、そこまでのものは東京では見かけない。何事もエスカレートしてしまうのは、愛知の県民性のひとつではないかと思っている。

そして、おまけがついてくるのは、モーニングの時間帯だけではない。たとえ、ちいさなお皿に盛られたピーナツだけだとしても。愛知、岐阜の人たちにとってはそれが当たり前になっているから、地元の友人のお父さんが出張で東京に来たとき、「喫茶店でコーヒーを頼んだら、コーヒーしかでてこなかった!」と衝撃を受けていたのも、当然といえば当然のことだ。

さて、名古屋市に大好きな喫茶店がある。ここに、モーニング目当てで行ったある日のこと。卵が好きなので、メニューのなかから卵サンドサンドウィッチを選んだが、そのときもゆで卵がついてきた。とはいえ、これはまだ想定内。べつの日、午後のおやつにとプリンを注文したときも、まず、ゆで卵が運ばれてきたのには、さすがに度肝を抜かれた。ほかの人の注文とまちがえているのかと思い、「注文してません……」と言いかけたが、ほかにお客さんはいなかった。わたしのために運ばれてきたゆで卵なのだ。プリンにもゆで卵。なかなかシュールだと思った。

この喫茶店にはじめてはいったとき、コーヒーを淹れていたのは若い男性だった。以前は、年配の男性がマスターだったらしい。個人経営の喫茶店は後継者がいなくて閉店するという話を耳にするので、代替わりができたんだ、これからもつづくんだ、と思ってうれしかった。しかも、週末のみではあるが、夜の営業もはじまっていた。この時間帯にはお酒も飲めるという。いろいろと試しながら、お店の将来を探っているのだろう。

あの日、ゆで卵とプリンをしみじみおいしく食べていると(ちなみに、プリンはかため。とろけるプリンなどというのは、プリンには褒め言葉ではないと思っている)、若いマスターのお子さんが学校から帰ってきた。ランドセルを下ろすなり空いたテーブルにお母さん(お母さんも、お店を切り盛りしている)といっしょに坐ると、お父さんに何か飲みものを用意してもらい(さすがに、まだコーヒーではなかった)、宿題をはじめた。生活の一部に喫茶店がしっかりと収まっている。なんという贅沢な日常だろう。

このあいだ聞いたところによると、このお店は最近、改装して、中庭のようなものができたらしい。できればすぐにでも行って、どんなふうに変わったのか、ゆで卵をお伴にプリンを食べながら、この目で見てみたい。

吉野山早苗

猫と喫茶店とキリアンが好き。近所の猫たちに癒される日々。
翻訳書:『オリエント急行はお嬢さまの出番』『貴族屋敷の嘘つきなお茶会』『お嬢さま学校にはふさわしくない死体』など
喫茶店/猫/キリアン